福岡県豊前市のみかん農家、岡本栄一さん。農園から望む豊前海の潮風、そして果実の栽培に適した赤土・・・12ヘクタールに及ぶ広大な農園で、“のんびり”とみかんづくりを続ける・・・はずだった。
北九州市から鹿児島市までを東回りで結ぶ高速道路で、政界や経済界を筆頭に早期開通が叫ばれてきた。その計画ルートが、みかん農園を真っ二つに分断する形で伸びているのだ。
岡本さんは、建設費が半額以下になるという代替案を5年がかりで独自に作成、事業者側に提出した。しかし、一度敷かれたレールが変更されることはなかった。
1億7000万円を超える補償金の受け取りは拒否し、国を訴える裁判も起こした。
それでも工事は止まらない。ついに農園のすぐそばにまで工事の手が迫る。そして事態は、行政代執行という最悪な方向に傾いていく・・・
多くの利益をもたらす一方で、一部の犠牲も強いる公共事業。今、その在り方を考える。
「なぜ、そこまでするんだろう・・・?」ミカン農家の岡本さんへの取材を始めた頃の率直な感想です。この質問を岡本さんにぶつけたことがあります。「あなたはやはり、最近の若者だね」と返されました。
“面倒なことには首を突っ込まない”“国の言うことは絶対”・・・
現代の日本に生きる私たちは、得てしてそう考えがちではないでしょうか。
公共事業は、私たちの生活に多くの利益をもたらします。しかしその影で、一部の犠牲を生み出してしまうのも事実です。海外では、公共事業の計画段階から積極的に住民の意見を取り入れるという動きも進んでいるといいます。「仕方ない」で片付けがちなこの問題。これからの公共事業の在り方に考えを巡らせるきっかけになればと願うばかりです。